書籍紹介

■ 乳腺の診断を進めるなかで,超音波検査とマンモグラフィでカテゴリーが相違してしまう.診断や治療,あるいは検診に携わる誰もが経験するこの違い.その実際はどうなのだろう….
■ 同一施設で両方の検査を受け,カテゴリーが付けられた83症例(2年間の連続症例)を,超音波検査のカテゴリーに基づいて並べ直し,マンモグラフィと比較してみると….
■ 写真703点 図版25点

はじめに

 日本では乳がん検診はマンモグラフィが国際基準と喧伝されており,40歳以上よりマンモグラフィによる乳がん検診が推進されている.ただし,乳腺の密度が高い40歳代の検診精度が低いことより,マンモグラフィと超音波検査の併用や超音波検査単独で実施するなど,超音波検査を重視する方法を採用する検診施設もある.
 最近になり,約7万6千人の40歳代の女性を,マンモグラフィ検査を受けたグループとマンモグラフィ検査に超音波検査を加えたグループの2つのグループに分けて比較する大規模な臨床研究が行われた.乳がんの発見率は超音波検査を加えたグループの方が約1.5倍高いという結果であった.しかし,この大規模な臨床研究のそもそもの誤りは,日本でもマンモグラフィが有効であるという誤った推測の上に成り立っていることである.正確な評価をするには,マンモグラフィ単独,超音波検査単独,マンモグラフィと超音波検査併用の3つのグループに分けて比較する必要がある.
 筆者の私見であるが,もともと超音波検査が有効であるから,マンモグラフィと超音波検査の併用が有効であるのであって,マンモグラフィは無効であり,超音波検査のみでよいと考える.
 超音波検査は全く侵襲性がなく,痛くもない検査なので,乳がん検診に推奨すべきものであるが,マンモグラフィと異なり,人間が画面を見ながら検査していくことより,能力の劣る検査者が検査を行うと乳がんを見落とし(偽陰性),逆に何でもないものを異常と捉えてしまうことがある(偽陽性).
本稿では超音波診断を基本としてマンモグラフィではどのように見えているのか,カテゴリー診断の両者のdiscrepancyが何に由来するものであるのか,また造影CTおよび造影MRIはどのように導入すべきであるのか等々,症例ごとに記載した.  個々の症例の採取は,2012年1月から2014年12月の2年間において,超音波検査を受けてカテゴリー診断が付いている例を日付順にランダムに抽出し,カテゴリー順に配列し直した.したがって,後から判定し直したものではないので,超音波検査,マンモグラフィともに判定当時のカテゴリーをそのまま採用している.必要に応じて,「経過と診断」の項目で訂正し,読者諸氏の診断能を深めるべく解説を加えた.本書は,既出書によくある後から病理診断に合わせて記述を変えるようなことはしていないので,真に日常臨床に役立つ日々の症例という感を受けていただければ幸いである.

目次

はじめに
お断り
乳腺画像診断のアルゴリズム
乳腺腫瘤良悪性の診断基準
乳がんの典型的な超音波像

カテゴリー1
症例1 28歳 女性 正常
症例2 74歳 女性 正常
症例3 67歳 女性 正常
症例4 20歳 女性 正常
症例5 28歳 女性 正常(授乳期乳房)
症例6 51歳 女性 正常(左乳房内リンパ節)

カテゴリー2
症例1 38歳 女性 左線維腺腫
症例2 42歳 女性 両側乳腺症(嚢胞)
症例3 35歳 女性 右脂肪腫,左Mondor病
症例4 53歳 女性 両側血管脂肪腫
症例5 45歳 女性 左石灰化上皮腫
症例6 69歳 女性 左過誤腫
症例7 29歳 女性 授乳期乳房,左嚢胞
症例8 42歳 女性 両側乳腺線維症
症例9 68歳 女性 右脂肪壊死症
症例10 77歳 男性 右女性化乳房症
症例11 50歳 女性 両側嚢胞,左乳房内リンパ節

カテゴリー3
症例1 39歳 女性 両側線維腺腫(乳腺症型)
症例2 27歳 女性 両側多発線維腺腫
症例3 40歳 女性 左線維腺腫
症例4 38歳 女性 右乳腺症
症例5 35歳 女性 左線維腺腫
症例6 38歳 女性 左線維腺腫
症例7 43歳 女性 右flat epithelial atypia(FEA)
症例8 43歳 女性 右線維腺腫(乳腺症型)
症例9 43歳 女性 右浸潤性乳管癌(硬癌)
症例10 41歳 女性 左肉芽腫性乳腺炎
症例11 62歳 女性 左乳腺症
症例12 44歳 女性 右線維腺腫(乳腺症型)
症例13 36歳 女性 両側線維腺腫
症例14 48歳 女性 左乳管内乳頭腫

カテゴリー4
症例1 51歳 女性 左浸潤性乳管癌(硬癌)
症例2 45歳 女性 両側乳腺症
症例3 32歳 女性 右flat epithelial atypia(FEA)
症例4 50歳 女性 右陳旧性線維腺腫(乳腺症型)
症例5 48歳 女性 右atypical ductal hyperplasia(AHD)
症例6 41歳 女性 右粘液癌(純型)
症例7 72歳 女性 左浸潤性乳管癌(乳頭腺管癌)
症例8 48歳 女性 右乳管内乳頭腫
症例9 45歳 女性 左浸潤性乳管癌(硬癌)
症例10 62歳 女性 左浸潤性微小乳頭癌
症例11 68歳 女性 左浸潤性乳管癌(充実腺管癌)
症例12 43歳 女性 右DCIS(乳頭型,篩状型)
症例13 35歳 女性 左乳腺症
症例14 61歳 女性 左浸潤性乳管癌(乳頭腺管癌)
症例15 42歳 女性 浸潤性乳管癌(硬癌)
症例16 61歳 女性 右良性葉状腫瘍
症例17 56歳 女性 左浸潤性乳管癌(充実腺管癌)
症例18 40歳 女性 左線維腺腫(乳腺症型)
症例19 29歳 女性 右浸潤性乳管癌(硬癌)
症例20 73歳 女性 右浸潤性小葉癌
症例21 30歳 女性 右線維腺腫
症例22 68歳 女性 左放射状瘢痕
症例23 67歳 女性 右乳管腺腫

カテゴリー5
症例1 45歳 女性 左浸潤性小葉癌
症例2 40歳 女性 左DCIS(篩状型,面疱型)
症例3 55歳 女性 左浸潤性乳管癌(硬癌)
症例4 48歳 女性 左浸潤性乳管癌(乳頭腺管癌)
症例5 52歳 女性 左浸潤性乳管癌(硬癌)
症例6 43歳 女性 右浸潤性乳管癌(硬癌),左粘液癌
症例7 59歳 女性 右浸潤性乳管癌(充実腺管癌),左陳旧性線維腺腫
症例8 47歳 女性 右浸潤性乳管癌(硬癌)
症例9 44歳 女性 左浸潤性乳管癌(乳頭腺管癌)
症例10 62歳 女性 DCIS(篩状型,面疱型)
症例11 51歳 女性 左浸潤性乳管癌(硬癌)
症例12 44歳 女性 右浸潤性乳管癌(硬癌)
症例13 51歳 女性 右浸潤性乳管癌(硬癌)
症例14 48歳 女性 左浸潤性乳管癌(乳頭腺管癌)
症例15 42歳 女性 左DCIS(篩状型,面疱型)
症例16 62歳 女性 右粘液癌(純型)
症例17 70歳 女性 左浸潤性乳管癌(硬癌)
症例18 71歳 女性 左浸潤性乳管癌(充実腺管癌)
症例19 42歳 女性 浸潤性乳管癌(硬癌)
症例20 71歳 女性 右DCIS(面疱型)
症例21 74歳 男性 左浸潤性乳管癌(充実腺管癌),女性化乳房症
症例22 66歳 女性 左浸潤性乳管癌(充実腺管癌),右乳房内リンパ節
症例23 39歳 女性 左浸潤性小葉癌
症例24 42歳 女性 左浸潤性乳管癌(硬癌),右線維腺腫
症例25 51歳 女性 右浸潤性乳管癌(硬癌)
症例26 37歳 女性 左浸潤性乳管癌(硬癌)
症例27 50歳 女性 右浸潤性乳管癌(乳頭腺管癌)
症例28 51歳 女性 右粘液癌(混合型:充実腺管癌),左過誤腫
症例29 69歳 女性 左浸潤性乳管癌(硬癌)

コラム
■ マンモグラフィ診断
■ BI-RADSⓇによるカテゴリー分類
■ FADとは何だろう?
■ MMGによる乳腺部位(領域)の記載方法
■ RI(resistance index)の意味と意義
■ 乳がんと乳癌:「がん」と「癌」の違い
■ twinkling artifact〜超音波による微細石灰化の描出
■ encasement patternとは
■ AHDとDCIS〜乳管内増殖性病変を考える
■ connective tissue signあるいはsonographic spiculation
■ 非浸潤性乳管癌(DCIS)を考える
■ 乳房MRI診断
■ 構築の乱れ(architectual distortion)
■ 放射線感受性:もっとも感受性の高い乳腺
■ 腫瘤と腫瘍の違い
■ indian fileとは
■ second-look US
■ 嚢胞像を形成する腫瘤:その種類と超音波像
■ 石灰化の分布:マンモグラフィによる良悪性の判断基準
■ 潜在がん:きわめて稀な乳がんの可能性を考える必要はない?
■ 自己検診:おっくうにならない最も簡単な方法をお勧めします

症例画像ギャラリー